小林龍二,下村脩 両先生の特別講演会「薬学研究の楽しさと喜び」及び下村先生の長崎大学名誉校友記授与式を終えて
長崎大学薬学部地域薬剤師卒後教育研修センター長
中島憲一郎(昭46)
長崎大学薬学部地域薬剤師卒後教育研修センターは,薬学部の研究教育の活性化を目指して,同窓生はじめ多くの皆様方からいただいた寄付金により,平成17年に設置されました。薬学六年制のスタートにも合致していたことから,地域薬剤師の卒後教育研修の一環として,実験や演習を取り入れた非常にユニークな研修と,各界で活躍中の同窓生を講師に招いての講演会を実施しています。
本年度は第3回の講演会として,国外で活躍中の研究者に講演していただく企画をたてました。小林龍二先生(院55)と下村 脩先生(昭26)のお二人です。なお,下村 脩先生は昨年「朝日賞」を受賞されたことが評価され,この度,長崎大学名誉校友の称号が授与されることになり,その式典も同時に開催されました。
今回の講演会には,同窓会の皆様,在学生,地域薬剤師の皆様など総勢413名の参加がありました。久しぶりに中部講堂が一杯になり,大変盛会でした。ご参加いただいた皆様に心より感謝申し上げます。
さて,小林博士は現在,米国テキサス大学MDアンダーソン癌センター教授で,長崎大学大学院薬学研究科の修士及び博士課程(指導教官,鶴大典教授)を修了しておられます。これまで,米国のハワイ大学,コールド・スプリング・ハーバー研究所及びテキサス大学において延べ23年に亘って研究を続けておられます。専門はプロテオミクスの研究ですが,今回の講演では「プロテオミクスの新展開」と題して,最先端のプロテオミクスの研究状況を,これまでの研究経過や成果を交えながら分かりやすくお話しいただきました。ポストゲノム時代の一翼を担うプロテオミクス研究における癌など重篤な疾病のマーカー検索やこれからの研究の方向性など,さらに理解が深められたと思います。
一方,下村 脩先生は現在,米国マサチューセッツのファルマウスに住んでおられます。昭和26年に長崎医科大学附属薬学専門部を卒業された後,同助手,名古屋大学助教授を経られて,米国プリンストン大学上席研究員,ウッズホール海洋生物研究所上席研究員を歴任されました。平成13年にウッズホール海洋生物研究所を退職された後は,ご自宅の研究室で生物発光の研究を楽しんでおられます。先生の米国での研究生活は50年近くになろうとしています。今回の講演では「クラゲ中の二種類の蛋白質「イクオリンと緑色蛍光蛋白質(GFP)」の発見とその生命科学への貢献」と題してお話しいただきました。下村先生はこの50年の間,生物発光に関する研究を継続しておられますが,その最大の業績ともいえるイクオリンやGFPの発見に至った状況をユーモアを交えながらお話しくださいました。5万匹のオワンクラゲから僅か2mgのイクオリンを取出し,発光反応機構を解明していく努力は,並大抵のことではありません。「この研究に費やした長い年月や資金,そして多くの偶然の中,一つでも違っていたらこの発見は無かったであろう」と感想を述べられましたが,非常に奥深く感動的な言葉でした。先生が良き助手である奥様と共に歩んでこられたこれまでの長い研究生活を多くの学生が感銘を受けながら聴いておりましたが,彼らの将来にとって,きっと役立つ話であったろうと信じています。
下村先生への長崎大学名誉校友の称号授与は,先にも記載しましたが,昨年,朝日新聞社が提供する「朝日賞」の受賞が評価されたものです。朝日賞は科学や芸術など非常に優れた業績に対して贈られる賞ですが,先生は「緑色蛍光たんぱく質GFPの発見と生命科学への貢献」で受賞されました。今回,講演に先立って斎藤 寛学長から名誉校友記が授与されましたが,学長は「150年の長崎大学の歴史の中で,最も喜ばしい日となりました」とお祝いの言葉を添えられました。なお,本校の名誉校友は大学の名を大いに高らしめた卒業生に贈られるもので,下村先生が3人目となります。
先生方のご講演のあと,ホテルニュー長崎で懇親会を開催しました。学長,学部長はじめ60名余の参加を頂き,両先生を囲んで大変和やかで楽しい懇親会となりました。ご参加いただきました皆様に心より感謝申し上げます。左の写真は学部長からお二人の講演者に記念品を贈呈しているところです。
長崎大学地域薬剤師卒後教育研修センターは,これからも長薬同窓会と連携しながらより良い,より充実した地域薬剤師の卒後教育研修を目指して取り組んでまいります。今後とも,皆様方のより一層のご協力とご助成をお願いいたします。